タイが生んだ「悪魔の左足」 ティーラトンが体格の不利をくつがえして日本でも輝く理由

タイ出身のティーラトン選手は、タイ代表そして所属する横浜F・マリノスで活躍する左サイドバックの選手です。なんといっても最大の魅力は、正確な左足のキック。「悪魔の左足」の異名を持ちます。

ティーラトンのプロフィール

 

生年月日 1990年2月6日
出身 タイ・ノンブリー
身長 171㎝
体重 62㎏
利き足
ポジション 左サイドバック
背番号 横浜FM:5
タイ代表:3
タイトル ■クラブ
ブリーラム・ユナイテッドFC
タイ・プレミアリーグ2回(2011, 2013)
タイFAカップ3回(2011, 2012, 2013)
タイ・リーグカップ3回(2011, 2012, 2013)ほか
■横浜FM
J1リーグ(2019)
■U-23タイ代表
東南アジア競技大会金メダル(2013)
■個人
タイ年間MVP:1回(2019)
タイ・プレミアリーグ MVP:1回(2013)
AFCチャンピオンズリーグ ドリームチーム:1回(2013)
東南アジア競技大会 ベストイレブン
Jリーグ優秀選手賞:1回(2019)
SNSアカウント Facebook=https://www.facebook.com/TheerathonBunmathanOfficial
instagram=https://www.instagram.com/theerathon_3/
(Twitterは運用していません)

ティーラトンの経歴

19歳のシーズンからタイの名門チームであるブリーラムユナイテッドでプロ選手として活躍し、とくに左足のフリーキックやコーナーキックは絶大なる正確性を誇ります。2018年にヴィッセル神戸に移籍して来日するも半年で期限満了により帰国。しかし翌2019年1月に横浜FMからオファーを受けるとJリーグへの再挑戦を決断します。当初は怪我に悩まされながらも、課題を克服してレギュラーに定着してタイ人として初めてJリーグ優勝を経験した選手となり、タイの年間最優秀選手を受賞し、同国を代表する選手として成長しています。2020年にはレンタル先だった横浜FMへの完全移籍が発表されました。この際に、タイのムアントンに横浜が支払った移籍金は1億3千万円と言われて、ティーラトン自身とは年俸5千万円ほどで3年契約だと複数のタイのメディアが報じました。愛称はブンちゃんで、ブンマタンという姓から取られています。タイ人の妻とリスボンくんという4歳になる息子がいます。

父の勧めで始めた、家族を助けるためのサッカー

ティーラトン選手がサッカーを始めたのは8歳、小学3年生のとき。熱心なサッカーファンだった父の勧めがきっかけでした。裕福とは言えない家庭で育ったため、サッカーを習う体育学校ならば学費がかからないのは魅力だったといいます。4年生からは親元を離れ寮で暮らす日々にホームシックにかかりましたが、サッカーが大好きだったことに加えて、将来サッカー選手になることで家族を経済的に助けたいという一心で努力を続けることができました。

18歳でプロ入り、ラパチャFC時代

 ティーラトン選手がプロ入りの夢をかなえたのは2008年、18歳のときでした。高校卒業とともに、100年以上の歴史をもつ古豪チーム、ラパチャFCの一員になるとリーグ戦10試合に出場し、翌年には1部リーグ、それも常に優勝争いを繰り広げるビッグクラブへと移籍を果たします。 

国内屈指のビッグクラブ、ブリーラムユナイテッドへの移籍

19歳で加入したのは国内最大のビッグクラブである「ブリーラムユナイテッド」でした。ここでもすぐにレギュラーを掴み、二度の国内三冠制覇を含め、タイトルを総ナメにするチームの中で、ティーラトン選手もスターダムを駆け上がっていきます。2013年にはリーグの年間MVPを受賞したほか、タイ代表としてデビューを飾り、23歳以下のタイ代表を主将として引っ張り、東南アジア大会での金メダルを勝ち取りました。

移籍したムアントンユナイテッドでも優勝に貢献

2016年のシーズン途中には、ブリーラムの宿敵であるムアントンへ移籍します。このことはファンの間でも大きな波紋を呼び、批判も受けました。しかしノンタブリー県出身のティーラトン選手にとってはムアントンはふるさとに本拠を置くビッグクラブです。特別な思いがあったのでしょう。
だからこそプレッシャーがかかったはずですが、移籍1年目の2016年にムアントンは見事に4度目のリーグ優勝を果たします。ティーラトン選手は途中から加わりながらも12試合に出場し、この優勝に貢献しました。

初来日、ヴィッセル神戸ではあのイニエスタと同僚に

2018年、ティーラトン選手の運命が大きく変わっていきます。自身、初めての海外挑戦。それもいつかプレーしたいと目標にしていたJリーグからのオファーでした。ヴィッセル神戸へのレンタル移籍という形でチームに加わると、開幕戦こそ途中出場でしたが春先から左サイドバックのレギュラーとして定着し、リーグ28試合に出場する活躍を見せました。この神戸でティーラトンと同期入団となったのがFCバルセロナやスペイン代表の看板選手だったアンドレス・イニエスタ選手です。他にも元ドイツ代表のポドルスキ選手がいて、さらにオフにはダヴィド・ビジャ選手が加わるなど神戸に続々とヨーロッパの超大物が終結した時期でもありました。イニエスタ選手からかけられた言葉の中で、“いつも自分でいること、みんながもつ個性やスタイルの良さがある。それを捨てずに楽しんでやろう”というアドバイスがティーラトン選手の心に強く残ったと語っています。

横浜F・マリノスでタイ人選手初のリーグ制覇。年間最優秀選手にも

結局1年でヴィッセル神戸へのレンタルは終了し、タイに戻ったティーラトン選手のもとに再び日本からのラブコールが届きます。今度は横浜F・マリノスです。開幕直前に当時のレギュラーだった山中亮輔が浦和レッズへ移籍してしまい、急きょティーラトン選手に白羽の矢が立ちました。
しかし神戸時代と異なり、横浜FMで求められた特殊なサイドバックとしての約束事、たとえば攻撃時には中央に構えることなど不慣れなプレーに当初は適応できませんでした。しかし母国でつかんだ栄光を一旦捨てることによって、ティーラトン選手は新たな進化への道を切り拓き、チームからの信頼をつかんだのです。
J1優勝を成し遂げた2019シーズン、第25節ガンバ大阪戦に、自身のJ1初ゴールを記録。タイ人としては初となるJ1優勝に貢献しただけでなく、2019年のタイの年間最優秀選手にも選ばれる記録づくめの1年となりました。

タイ代表

20歳でタイ代表としてデビューしたため、すでに代表キャリア10年を誇り、その間64試合に出場してきました。近年、タイ代表は躍進していて2019年には自国開催以外で初めてベスト16に進出しました。ティーラトンのほか、チャナティップ(札幌)、ティーラシン(清水)、ティティパン(大分)などJリーグ経験者も増えてきています。そのタイ代表監督といえば、かつてガンバ大阪をリーグ初優勝に導き、W杯ロシア大会でも日本代表を率いた西野朗監督です。実績豊富な西野監督に対する期待はタイ国内で非常に高いものがあり、西野監督もまたJリーグに所属する才能のある選手を中心メンバーとして起用するなどW杯の最終予選進出を目指して準備を進めています。ティーラトン選手も引き続き絶対的な主力選手としての期待がかかることはまちがいないでしょう。

ティーラトンのプレースタイル・特徴

ティーラトンについて知らない人も知っている人もみんな得する、ティーラトンの特徴。

正確なキック「悪魔の左足」

ティーラトン選手の最大の武器は左足から繰り出される正確なキックです。ブリーラム時代にACL(アジアチャンピオンズリーグ)に出場した際には、セレッソ大阪やガンバ大阪を相手にも得点を決めた経験があります。彼にフリーキックを与えることは対戦相手にとって命取りになりかねません。しかもプレースキックだけでなく、サイドからのクロスも質の高いボールを入れることができます。あまりにも精度が高いために「悪魔の左足」という異名を取り、Jリーグでもその精度はトップクラスです。

1対1の守備も急成長

もともとタイの選手は体格的に小さな選手が多く、フィジカル勝負は得意ではありません。加えてタイ時代、そしてヴィッセル神戸でも、1対1の守備時に軽い対応を見せてしまうことが少なくありませんでした。翌年に横浜FMに加入した際も、怪我で出遅れたため当初は失点に直結してしまうような守備対応もあり、それに加えて横浜の特殊なサイドバックとしての約束事、たとえば攻撃時には中央に構えることなど不慣れなプレーはティーラトン選手の気持ちを追い詰めていきます。しかし母国でつかんだ栄光を一旦捨てることによって、ティーラトン選手は新たな進化への道を切り拓いていったのです。

J1リーグのプレースピードの慣れもありましたが、最大の変化はメンタルの変化でしょう。「このくらいでいいか」ではなく、1対1では絶対に負けないという気持ちを強く持つことでしつこい守備を実践できるようになりました。「練習に行きたくないと思ったこともある」と語ったティーラトン選手ですが、守備のリズムをつかむと攻撃にもいい影響が出てきます。昨年の後半には、守備が軽いなどという批判は一切なくなりました。

攻撃的なプレースタイルはさらに進化。ゴール前で見せる鋭い弾道

2019年12月7日、横浜FMはリーグ15年ぶりの優勝を成し遂げます。優勝を争ったFC東京を相手に3-0という快勝をかざりますが、この試合で値千金の決勝ゴールをあげたのがティーラトン選手だったのです。相手守備に当たったことでコースが変わった幸運もあり、横浜に歓喜をもたらすその中心に彼の左足はありました。さらにこの2020年は、日本チームの選手としてACLに初出場を果たし、またもや彼の左足から生まれたチームを勝利に導くゴールも見られました。横浜FMの攻撃的スタイルに順応できるのかという疑問も今は昔、欠かせない選手にと変貌しました。自信を深めて、タイの年間最優秀選手になったティーラトン選手は今年30歳を迎えましたが、その向上意欲は衰えることを知りません。

ティーラトンの今後について

ティーラトンに今後、どんな期待ができるのか。

横浜Fマリノスについて

加入して3年目のシーズンを迎えます。J1リーグでも、ACLでも常に大事な試合には先発してきまいたので、まずは今年も左サイドバックのレギュラー確保を目指します。優勝した2019年から一転、2020年は無冠に終わってしまったため、王座奪還を目指す戦いとなります。当初は戸惑いを見せた横浜FMの攻撃的サッカーにもすっかり順応し、今ではこのサッカーを楽しめていると、ティーラトン選手は語っています。

タイ代表について

2021年3月以降にW杯アジア予選は再開する見込みで、タイ代表は最終予選進出をかけて戦います。Jリーグを主戦場とするティーラトン選手が渡航できるのか、再来日した際の自主隔離期間はどうなるかなど不透明な要素が多くなっています。

移籍などの情報

2020年シーズンより横浜FMに完全移籍し、3年契約したと報じられていました。2021年については、中国・韓国・母国タイの強豪チームからもオファーが届いていたと言われていますが、横浜への残留を明言し、チームからも契約更新が発表されています。